本の補修が旅へ誘う。

FLOWERS
JANET HARVEY KELMAN
THOMAS NELSON AND SONS(刊行年不明)

帳場の机の上に『FLOWERS』と題されたなんとも愛らしい佇まいの洋書が置かれていました。
お客さまからの買取りで入ってきたという、珍しく古めの洋書。

手に取り、目を凝らすと、ブルーグリーンの厚紙に、表紙が貼り付けてあります。おや、と裏を向けると裏表紙も、そして背表紙も、カバーの折り返し部分も全部切り貼りされています。

傷んでしまった元のカバーを外してポイと捨てずに、ひとつひとつ切り取って活かされていたのでした。
繕ったのはこの本を売りに来てくださったお客さまなのか、、はたまた前の持主か…

なにしろ扉には、

“To David
From all ? Brooklyn
June 27.1935”

と書き込みがあります!

1935年といえば、花は花でも『かわいそうなぞう』で語られることになる象の花子が、タイから上野動物園にやってきた年です。花子は戦時下の政策により、1943年に餓死させられることになりますが、今こうしてほうろうの帳場にある『FLOWERS』は世界大戦をくぐり抜け、巡り巡って、まだ旅の途中。

切り取られたカバーは、はさみの線が辿々しく、必ずしも器用とはいえない補修ですが(ごめんなさい!)、表紙のヒナギクに色合せがぴったりのブルーグリーンの厚紙は、カバーに仕立てるには、少々尺不足。それを目立たないところで継ぎ接ぎの工夫がなされているのです。持主と本との親密な時の流れが見えてくるようです。

 

カバーにばかり気をとられていましたが、撮影のためカバーを外すと、これまたヒナギクの絵が貼り込まれ、箔押しで飾られた可憐な本体が現れました。

中身はというと花の色で調べる図鑑の先駆けなのでしょうか、目次は、黄色の花、白い花…と、色ごとに分けられており、本文に48枚のカラー図版が綴じられています。

“ SHOWN TO THE CHILDREN ” SERIESとありますので、子ども向けに編まれた本のようですが、四六判よりひとまわりちいさなサイズは手に納まりよく、携帯サイズの図鑑としてかなり普及したのではないかと思われます。

 

はたして、1935年、この本を贈られたDavidは、この本の最初の持主だったのでしょうか。

ブルックリンの親戚が植物好きの少年デイヴィッドに贈ったのか、あるいは、学生仲間がお金を出し合って何らかの事情で離れてゆくデイヴィッドへプレゼントしたものなのか…。デイヴィッドは、どんな人生を送ったのでしょう。

 

しばし時空を超えた机上旅行に誘ってくれた本のご紹介でした。