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野外活動の4月。

桜もちらほらほころび始めました。

 さて、4月。
 30日に不忍ブックストリートの一箱古本市を控え、店内のイベントはないのですが、店の外では、春な、新たな、新年度な、イベントが目白押しです。古書ほうろうに深くご縁のある催しを3つご紹介いたします!

 まずはご近所から。


 4月2日(日)〜8日(土)、本郷図書館の4軒隣、国の登録有形文化財に指定されている島薗家住宅にて、「花、菜、色。―佐藤寿子 作品展―」が開かれます。

 往来堂書店さんや古書ほうろうの店頭でご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。佐藤寿子さんは〈花工房〉という屋号で、植物、野菜など主に植物画のポストカードを作っておられ、毎年7月には大観音のほおずき千成り市にも出店されています。
われわれが佐藤さんを知ったのは、たぶん14年前、谷根千工房の山崎さんからいただいたヤモリのカードでした。

 さて、この展覧会のご案内には、企画として古書ほうろうの名前を並べさせていただいていますが、要は、ただ言い出しっぺ、なのでした。
 昨年9月に当店で谷中ののこぎり屋根工場から見つかった資料のお披露目として「谷中と、リボンと、ある男」展を開催させていただきましたが、その後のこ屋根リボン会議などで島薗家住宅に何度か足を運ぶ機会があり、そのたびにうっとりする日々が続いていたのですが、ちょうどその頃、花工房さんのポストカードの納品がありました。
クリスマスローズ、ニホンズイセン、デンドロビウム、カトレアなどなど、カードを眺めているうちに、それらの絵が、島薗邸の広間に飾られている風景が、ポン、と頭に浮かんでしまいました。しばし自分の妄想にうっとり、気づいたら妄想は暴走へ姿を変え、佐藤さんに熱い熱いメールをお送りしていたのでした。
 そうして「花、菜、色。―佐藤寿子 作品展― in 島薗家住宅」が実現するとお聞きしてからは、ひたすらわくわく。

 島薗家住宅とは、いまから85年前、昭和7年に、東大医学部教授島薗順次郎さんがご子息島薗順雄さんのご結婚を機に建てられた瀟洒な洋館で、造りつけのベンチのある大きな玄関を入ると、右手に書斎、お庭に面してサンルームのある洋間があります。廊下をはさんで、北側には使いやすそうな広いお台所などなど。ぜひともディテールは、実際にご覧になってください。設計は川崎銀行を手がけた矢部又吉だそうです。2階のステンドグラスもお忘れなく。
 お客さまへご案内のDMをお渡しすると、え、これ写真じゃないの?という驚きの反応のしばしば。佐藤寿子さんの手による繊細な筆致の植物たちで彩られた島薗家住宅へ、ぜひぜひお運びください。展示期間中は入館無料です。初日は18時より仰木亮彦さんのライブもありますよ。(1,000円)

 さて、次は電車に乗って新宿、花園神社へ!

 
 4月14日(金)〜23日(日)、水族館劇場が今年は、花園神社に小屋を建てます!
 ご近所の方ならお馴染みの方も多いはず。水族館劇場は、数年前まで光源寺で毎年演っていた小屋掛け芝居の一座です。大漁旗や帆布を継ぎ合わせまるで天に挑むかのように聳えるテントは、その継ぎ目からおいでおいでと、大人のお伽噺へ手招きします。ひとたび潜ったら二度とこの世に戻れないんじゃないかとそんな不安は一瞬のこと、好奇の期待がどんどん膨らんで、ふらふらと招かれてしまうのです。桃山邑の紡ぐ言葉の世界、舞台に裏方に変幻自在の役者たち。さ、さ、新宿の真ん中につかの間現れる舞台「黒翁のまぼろし」、驚天動地の野外スペクタクルへ。いざ、「この丗のような夢・全」へ!
 当店でも、前売り券も販売中です。日にち指定ですので、お早めにお求めください!
 水族館劇場 ニュース:前売券ステーション チケット搬入完了!

 最後は、地元を遠く離れ、山形県は鶴岡へ!

 こちらは、明日、4月1日(土)〜26日(水)、画家・三井永一の仕事「想像と創造(イマジネーションとクリエーション」展が、鶴岡の致道博物館にて開催されます。
 一件の買取が、鶴岡とのご縁をもたらしてくれました。
 はじまりは、大震災の直後の西海孝×関口直人さんのライブでした。そこにお客さまとして来てくださっていた、Kさんが、のちにご親戚の本を引き取ってもらえないか、と声をかけてくださったのが、三井永一さんの蔵書だったのです。
 すでにずいぶんと物が運び出された後ではありましたが、画家の「アトリエ」という、ものが生まれる空間に初めてお邪魔したときの興奮は今でもはっきりと憶えています。大衆小説全盛期に「職業として」挿絵のお仕事をこなされてきた、そのスピード感や高揚感、そして蓄積が、仕事机の周りの道具の配置、そのペン立てのペン1本から、書棚に差し込まれた〝人力〟百科事典から、くらくらするくらいに伝わってきたのでした。三井さん直々にスクラッチボードという便利なツールを教えていただくという思いがけない出来事もありました。
 われわれに託されたのは、一般書の他に、膨大な数のスクラップブック。タイトル別、話順、掲載誌も切り取り、どなたかに差し上げたものは、空いたページに誰それへ、とメモする几帳面さで、原画など手がけられたお仕事が、整理されて残されていました。今のように検索の時代ではないので、人物、建物など、それぞれお仕事に必要な項目ごとに、いくつもの切り抜きがあらゆる角度からの仕事に応えられるようにスクラップされていました。
 そうして買い取らせていただき、自分たちでもそれらを記録し直したりしましたが、果たして売るとなるとどうしたものか、できることなら散逸させたくない、陳列の仕方をどうしたらよいのか、考えるうちに数年が経ってしまい、ひとつの時代を駆け抜けた挿絵家の資料を死蔵しておくには忍びなく、ある日、そうだ、鶴岡へお返しするのがよいのではないか、とようやく思い至ったのでした。
 三井さんが故郷の鶴岡を想うお気持ちは、お目にかかったときにも、買い取らせていただいた本からも強く伝わってきていたのに、もっと早く気づけばよかった!
 さっそくKさんにご連絡し、三井さんと親交の深かったとお聞きしていた致道博物館への寄贈をご相談し、館の酒井さん、本間さん、菅原さんが引き取りに来てくださったのが、ちょうど昨年の3月でした。


 そして1年経った先日、4月に「想像と創造(イマジネーションとクリエーション」開催のお知らせをお送りいただきました。三井さんのアトリエに入らせていただいた者として、こんなにぴったりなタイトルは無いと我がことのように胸を張ってしまいます!仕事机のイラストをチラシに配してくださったセンスにもナイスで、何よりたった1年で、こんなふうに多くの方々に見ていただける機会をつくるまで準備してくださったことに頭がさがります。
 われわれが目にした資料は、挿絵画家・三井永一の面が多かったのですが、この展示では油彩、版画と、様々なお顔を見ることができそうです。お宅で何点か油彩も見せていただいたときにも、ずいぶんと締め切りに追われてお仕事をしてこられたはずなのに、それでもほんとうに描くことがお好きなんだなぁと、その情熱に打たれました。
 三井さんからは買い取りのあとも、何度か、何々の花を描きたいのだけど、よさそうな本はないか、とお電話をいただきました。一度は、ご希望に近いものをお渡しできたのですが、そのあとはご希望にお応えできず、そのうちにご連絡もなくなりお亡くなりになったと聞いて、お役に立てなかったなぁという思いがありました。
 三井さんのお宅から千駄木経由でずいぶんと遠回りしてしまいましたが、致道博物館のみなさまのご尽力によりこのような展示が開かれることとなり、三井さんも喜んでいらっしゃるのではないかしら、と感じています。
 もしもお近くの方でこのブログを読まれた方がいらっしゃいましたら、どうぞお出かけください。そしてお近くでない方も、生涯、描き続けた三井永一という方のお仕事、プライベートの作品を見にお出かけください。われわれもお休みをいただいて、晴れて三井さんのお仕事たちとの再会を果たしたいと思っています。(宮地美華子)