
『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ 完全版』刊行記念フェア
02/27 - 05/05

会期 2025年2月27日(木) 〜 5月5日(月祝) *月火定休
会場 古書ほうろう
(台東区池之端2-1-45 東京大学池之端門前)
長年、繰り返し読んできた『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ』の「完全版」が刊行されることになり、もう居ても立っても居られなくて、フェアを開催することにしました。
きっかけは、発売日(2月27日)を告知する斎藤充正さんの note でした。そこでは上下巻1200頁強の全面改訂拡大版であること、そうなるに至った経緯、大幅に加筆された箇所などが紹介されていて、いやが上にも期待は高まるわけですが、最後がこのように締められていました。
まずは書店で手に取ってみていただければ、と思うが、書店の数も淘汰されたり店舗が縮小されたり、と言うケースも多い。結局はネットショッピングが中心になってしまうのだろうか。
それを読んだ瞬間、「それはそうかもしれないけど、でもこの本は店頭で手に取ってもらいたい。少なくともうちのお客さんには!」と熱いものが込み上げてきて、気づいたら斎藤さんに「フェアをしたいです!」とメールをしていました。そして書きながら、元版と出会ったときのことを思い出していました。
今と違って、昔はどんな本も、本屋で突然出会うものでした。なので「今日はどんな本が出てるかな」と毎日のように本屋を覗きました。たとえ何も買えなくてもそこにはいつも発見がありましたが、なかでも最大の喜びは「こういう本があったらなあ」という夢想が忽然と本のかたちとなって現れることで、1998年4月、『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ』を目にしたときが、まさにそうでした。
当時はギドン・クレーメルで爆発した「ピアソラ・ブーム」の只中でしたが、肝心のピアソラ自身のアルバムはオリジナルな形では入手しづらく、粗悪品が多数出回っていました。そしてピアソラについての本も皆無でした(正確にはその前年一冊出たのですが、まったくの期待外れでした)。そんななか出た斎藤さんの本は、様々な文献を元にその生涯を辿る本編と、欄外の膨大な注、そして巻末の緻密で詳細なディスコグラフィが組み合わされたもので、「ピアソラのことをもっともっと知りたいのに、知るすべがない」という飢餓感を完璧に満たしてくれる一冊でした。
ただ、そのじつ当時はこの本の凄さをまだ半分ぐらいしかわかっていませんでした。他にもそういう人はたくさんいたはずですが「興味があるのはピアソラだけ」だったので。でもその後、全く別方向から1920年代後半のタンゴに耽溺し、さらに月日を経て1940〜50年代のタンゴにも開眼し、ようやくその歴史が一つの線になった後で読むと、ピアソラ百科事典と言ってもよいこの本が、いかにタンゴの歴史に目配りされたものかがわかり愕然としました。そしてそれは、革新的であるピアソラの音楽もまた、多くの先達の積み重ねの上にあるからこそなのだと、ようやく理解できたのでした。
といった次第で、この大切な大切な本の新たな門出を寿ぎ、店の入口に特設コーナーを設置します。出来立ての完全版をずらりと並べ、その周りをピアソラのレコードジャケットや写真で飾り、店内ではピアソラを中心に様々な時代のタンゴをかけます。ご来店の際には、ぜひ手に取り、耳を傾けてみてください。4月には斎藤さんをお招きしてのイベントも予定しています。
フェアが決まった数日後、ピアソラの金字塔である『ブエノスアイレスのマリア』をかけていたら、立て続けにお客さまから反応がありました。一人は縫製職の若い男性で「仕事の関係でタンゴを聴きはじめたのだけど、どうにもまだよくわからない。けれど、今かかってるこれは凄くぐっときます」と興奮気味に。もう一人はご高齢の女性で「素敵な音楽ね。これはどういうものなの?」と好奇心に満ちた眼差しで。こういう方々に、斎藤さんの本と、ピアソラの音楽と、タンゴの魅力を伝えられたらと願ってます。
【開催決定】ピアソラの秘蔵映像を観る
日時 2025年4月16日(水) 19時開演(18時半開場)
解説 斎藤充正
入場料 2000円
要予約 いずれかの方法でお申し込みください。
■ 電話:03-3824-3388(月火定休)
■ メール:koshohoro●gmail.com(●→@)
*件名は「4/16 斎藤充正」
お名前・人数・当日連絡可能な電話番号をお書き添えください
■ お申し込みフォーム→★
ピアソラだけではないタンゴ愛に満ちた、店主の宮地さんの発案で開催中の『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ 完全版』刊行記念フェア。これを彩るイベントに何が相応しいかを考えたとき、思い出すのが2020年2月に開催された『サルガン&サルガン 父と息子のタンゴ』上映会のこと。東京ではこの時が初公開で、おかげで私も鑑賞することができた。幅広いアイテムを細かく紹介していくのもいいが、ここは長めのまとまった映像をお客さんにじっくり堪能していただくのが良いのではないか。そう考えて2つの貴重な作品を用意することにした。1本目は、70年代前半にドイツで制作された“幻”の特別番組(45分)。もう1本は、ピアソラ五重奏団最後のヨーロッパ・ツアーの際、某ジャズ祭で収録された50分の映像。もちろん、前後には作品の解説もしっかりさせていただくので、お楽しみに。 斎藤充正