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山高登 旧蔵書フェア
2021/04/01 - 2023/01/21
3月22〜23日の2日間、夏葉社の島田さんと一緒に山高登さんのお宅に伺い、山高さんが生前蒐められた本を引き取りました。自作の木版画をあしらったその装幀に長年惹かれてきた者として、買い取りのお話をいただいたときから地に足がつかない感じでしたが、当日はまさに夢心地で。その装幀を通して想像していた山高さんの嗜好が膨大な蔵書として目の前に現れ、作品となったのものの奥にはこれだけ多様な本があったのだと感銘を受けました。
作業を始めてまず気づいたのは東京についての本が大量にあることでした。写真集、画集、図面、随筆、探訪記、観光案内など、タイトルに「東京」という文字が含まれるものだけでなく、『考現學採集』や『清水建設百五十年』といった隠れ東京本も次々と。淀橋町十二社で生まれ育った山高さんのわが町東京への愛着、失われていった町並みや建物への懐旧の情が伝わってきます。
同じぐらいたくさんあったのはやはり絵に関する本。美術書や展覧会の図録はもちろん、山高さんを版画の道に誘うこととなった武井武雄や初山滋の絵本、挿画を木村荘八や中川一政が手がけた小説。明治時代の文藝誌の山には美しい木版画の口絵が綴じ込まれ、江戸時代の和本の束を紐解くととユーモラスなタッチのイラストが現れるといった具合。
あと、鉄道の本もちゃんとあって。ぼくは山高さんの描く機関車や電車が大好きで、ファンになったのも『阿房列車の車輪の音』がきっかけだったので、これはやっぱりうれしかったですね。仕事部屋には自ら彫られた「浄氣舎」という看板も掲げられていました。
こんなふうに紹介していくとのんびりした作業風景が浮かぶかもしれませんが、じつのところその場でページを開く余裕は全然ありませんでした。視界をかすめる表紙やタイトルに興奮することはあっても手は休むことなく動き続け、判型を揃えては本を縛っていきます。でも、最後、仕事部屋の天袋の奥から鏡花や雪岱が次々出てきたときだけは、さすがに手が止まりました。美しい本をつくられたきた山高さんの、美しい本への憧れがつまっていただろう本の数々。下で受け取る島田さんからも言葉にならない声があがり、それからは二人してうわ言を繰り返しながら作業を終えました。
それから2週間。赤帽さん2往復分の整理をようやく終え、数日前から少しずつ店頭に並べ始めています。できることなら一度にすべてを陳列し、「これが山高さんが蒐めた本の全貌です!」とお見せしたかったのですが、店の広さ的にも段取り的にも難しく。残念ですが諦め、準備ができた本から出していくことにしました。現在、俳句、洋風建築、民家、版画、画集、図案といったあたりまで品出しを終え、この先、文学、絵本、鉄道、乗り物と続いていく予定です。これらの本は店の元々の在庫と同じ棚に並びますが、やはりそこだけ独特の空気を放つため、当たりを付けるのは比較的容易なのではないかと。中を開いて書票や蔵書印があれば一目瞭然。そうした記しがない本にも特製の栞を挟みましたので、ぜひ宝探しをお楽しみください。
また、飛び抜けて量が多い「東京についての本」と、稀覯本が目白押しの「小村雪岱と泉鏡花」という二つのテーマについては、一望できるよう特設コーナーを設けるつもりです。準備にはまだ時間がかかりますが、どうかしばらくお待ちください。なお、山高さんが装幀された本はご家族が手元に残されたので、今回店頭には並びません。編集された本については一部お譲りいただき、尾崎一雄、上林暁、宇野千代など、親しかった作家のものには献呈署名も入っています。
(新潮社時代の山高さんの仕事については、2017年に夏葉社から出た聞き書き『東京の編集者』をぜひ。山高さんが撮影したモノクロ写真も収録された、本としても記録としても素晴らしい一冊です。)
大きな買い取りの常として、最後の一冊が売れるのは5年10年先でしょうから会期に終わりはありません。また、順次出していくため「早めに行かないと欲しい本がなくなっちゃう」ということもありません。コロナ禍での生活はまだまだ続きますし、「近くまで行くから寄ってみるか」ぐらいのスタンスで、その日ならではの本と巡り合っていただければと思ってます。
古書ほうろう
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