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koshohoro について

東京都台東区池之端の古書ほうろうです。毎日試行錯誤してます。

清水あすか『空の広場』(カラノヒロバ)と詩集『腕を前に輪にして中を見てごらん。』

スライドショーには JavaScript が必要です。

八丈島に住む詩人、清水あすかさんから年に3回届く絵と詩によるペーパー「空の広場」
蛇腹折りになったB4版を開くと、むわっと、紙のサイズを超越した島の湿度が、生命力を伴って立ち籠めます。

清水さんに許可を戴き店にある20〜30号を1冊ずつ、詩の冒頭一部を添えてツイッターでご紹介させていただきました。発行は、すべて南海タイムス社さんです。

これまで店頭販売のみでしたが、この機にしばらくの間、詩集『腕を前に輪にして中を見てごらん。』(発行 南海タイムス社)とともに、通販も対応させていただこうと思います。

在庫がなくなりましたので、通信販売は終了いたしました。

送料など詳細は、ページ下方の【通販のご案内】をご覧ください。
ご注文フォームは、一番下にございます。

 

30号 雨で色ます見えている風景のさめざめ。


2020年3月発行

雨で色ます見えている風景のさめざめ。

わたしは小さい傘のてっぺんに、小さい長ぐつのかかとに、ぬれちゃうぬれちゃう言うけれど、自分は雨にいたくて走りもしないでぬれている。

ここはお墓だからなにも、さわらないで、そのままにしてずっと、置いておいてね。むしろ家が言った。

 

29号 夜だよ、もう夜だ、でておいで。


2019年11月発行

夜だよ、もう夜だ、でておいで。

見てしまうから閉じてくれとたのんでも閉じないまぶたを上から押さえつける下にわかる目のやわらかさは手が先におどろいて離れてしまう、
ならばせめて気持ちの中だけでも目を捨てたことにするのをがまんできない。

 

28号 見ろよ声はくりかえしくりかえしているよ。


2019年7月発行

見ろよ声はくりかえしくりかえしているよ。

夕方突っ立つアスファルトから見える山じゅうセミの声は上から下線を描いている。
声は知っている、わたしの生まれる前、山からは何が見えてたか。わたしがいない道路にも夏のごと、線を下ろしていたから。

 

27号 集めて集めまた入りきらないのが夜。


2019年3月発行

集めて集めまた入りきらないのが夜。

夕方が間に合わない足を引きずり夜へ行く山おびただしい木と木の根もと黒だまりでは
うぶ声といっていい声がしてるんだけど
知っている音にない声なので気づいたつもり、かたつむりが這っているとか
枯葉の一枚がいま割れたと言っておさめているのだ。

 

26号 波、知らぬ波、生きもの。


2018年12月発行

波、知らぬ波、生きもの。

待つ、とは自分が「動く」を取れないのだから、時間を
まわりに頼らなくてはいけない。
波のすじやテトラポット、バス停台コンクリート、座り込んでる床の木目に自分を組み込んで、
風景が代わって経たせてくれるよう託さなくてはいけない。

 

25号 ごらん、また耳ぎわが夜に入る。


2018年7月発行

ごらん、また耳ぎわが夜に入る。

ひとりの耳、うしろにできる夜は
今がどこか知ろうにも暗い
ひとりが持つにはあんまりに長い
耳のきわの影が作るまるい夜の池

 

24号 名を付く前に。


2018年3月発行

名を付く前に。

ひとりの次の単位として
ふたり。性別や組み合わせはどのようであってもよい。
ひとりは常におどろいた顔をしていた。おどろくことが仕事であった。ひとりはいつもうなずいていた。
脚立の三角に入って遊んだ。

 

23号 わたしはこわいこわい、


2017年12月発行

わたしはこわいこわい、

今外見はぬれた段ボールくらいたわむ材料のわたしはひたすらこわいこわいでできている、身体たわむたわむ、歩くのはこわいを掻くこと、息を吸うのはこわいを細く吸い上げることでいる。

 

22号 獣鳴る。(けもなる)


2017年7月発行

獣鳴る。(けもなる)

夜の山で鳴る音が音が
形をとるならばやわら
かい肉をしていて
食べる音は食べられる
音の内もも浮いてくる
筋肉見惚れなぞるすぐ、
違いは交代する。

 

21号 ぬれてるのも知らない。


2017年3月発行

ぬれてるのも知らない。

夕方灰がかった景色がぬれていく吸う鼻にこまか雨粒、が吸う息も何千もの雨粒、雨のにおいする。

 

20号 人差指縦一本線夜、横一本線土。


2016年12月発行

人差指縦一本線夜、横一本線土。

夕方から夜になる山はあまりに静かが過ぎて心ぼそいのがそのうち自分以外の生きものでうねる空気その練りの層がわかると小さな音でも刺さり身体にはじけて痛いほど。

 

詩集 腕を前に輪にして中を見てごらん。


表紙装画 清水あすか
装丁 清水あすか・南海タイムス社
発行 2016年 南海タイムス社
公式ページ http://shimizuasuka.web.fc2.com/shishu/udewomaeni/udewomaeni.html

 

【通販のご案内】

⬛︎ 詩集『腕を前に輪にして中を見てごらん。』 1冊 税込1,980円 1冊からご注文を承ります。
送料は、200円です。
(クリックポスト/追跡可/郵便受け投函/『空の広場』同梱の場合も、送料は200円です。)

⬛︎ ペーパー『空の広場』は、1冊 税込220円 「空の広場」のみのご注文は4冊以上でお願いします。
送料は、4〜8冊まで140円(定形外郵便)でお送りできます。
9冊以上は、200円です。(クリックポスト)

Hygge(ヒュッゲ)あたみらへん

東京はまだですが緊急事態が少しずつ解除されるようです。
でも、ウイルスが消えたわけではないのでもうしばらく「おでかけ」は控え、そのぶん妄想を膨らませるのが吉かなと。

さて、あたみ、らへんから、フレッシュなZINEの2号が届いています。
タイトル「Hygge」は、ヒュッゲと発音します。デンマークのことばで、“あたたかく居心地のいい雰囲気や関係”などを意味し、他の言語には置き換えられない単語だそうです。
「らへん」なゆるさがタイトルからして居心地のよさを感じます。
熱海ご出身の国分美由紀さん(主にテキスト担当)と大沼園子さん(デザイン担当)のお二人が発行なさっています。

ここ数年「熱海」が熱いらしい、というウワサをしばしば耳にしますが、果たして。
創刊号の「あたみらへんの食べものがたり」、最新2号の「あの人の仕事/大人の社会科見学」
どちらにも共通して言えるのは、「人」がとても魅力的ということ。真剣で朗らか。
そして遊び心あるデザインは手にしていて気分があがります。

陽射しも強くなって外に誘われますね。そんなとき、まずは「Hygge」を開いてみてください。
かなり充実した机上旅行がたのしめるはずです。

このページ一番下にご注文フォームがございます。

Hyggeあたみらへん 公式サイト:https://www.hyggeatami.info/
インスタグラム:hygge_atami
各号定価 1,100円(税込)
送料 200円

最新号 2号 特集:あの人の仕事/大人の社会科見学

— もくじ —
●特集01「あの人の仕事」
松崎工房/たなかきょおこ/BACCO Design & Illustration/SCRUMPCIOUS/真鶴出版
書肆ハニカム堂/芹沢パッケージ

●特集02「大人の社会科見学」
伊豆急 検修工場/反射炉ビア/加藤兵太郎商店/戸田塩の会/MOA美術館

あたみらへんの人:大木真実
(スキマcinema/NUMAZU DESIGN CENTER)
あたみらへんの宿:ロマンス座カド
やさいとことをつなぐ旅:増島農園
「そう、ボクとユカが出会ったのは……」奥川純一
and more!

A5/84P/1,100円(税込)

 

創刊号 特集:あたみらへんの食べものがたり

— もくじ —
●特集「あたみらへんの食べものがたり。」
●ヒュッゲな時間を味わうアウトドアごはんのすすめ

interview ぬまづの、おだし/山田食堂
〆竹商店/Beehive/堀江養鶏/渡辺ハム工房/湯河原 十二庵/ダイロクキッチン

●地元のお酒、飲んでる?
●日々のごはん、 わたしのごはん。

やさいとことをつなぐ旅
あたみらへんの人:大くまのりこ
あたみらへんの宿:LODGE MONDO-聞人-
「そう、ボクとユカが出会ったのは……」奥川純一
and more!

A5/72P/1,100円(税込)

 

【Hygge あたみらへん ご注文フォーム】

通販のお取り扱いは終了いたしました。

臨時休業のお知らせ

新型コロナウイルスの感染が拡大している状況をふまえ、3月28日より営業を見合わせております。

東京都の休業要請期限は5月31日までですが、状況によっては6月1日以降も引き続き休業いたします。その都度判断していくつもりです。

今後の変更につきましては、Twitterで発信するとともにこちらに掲載いたします。なお、「日本の古本屋」での通販は継続中です。

お問い合わせは、メニューのお問い合わせフォームからお願いいたします。
(2020年5月6日更新)

安倍政権による、人権を踏みにじるさまざまな行為は許されるものではありません。
抗議、意見し続けます。

医療従事者のみなさま 病院勤務のみなさま
配送ドライバーのみなさま
そのほか社会生活維持のためお仕事を続けてくださるすべてのみなさまの安全に
少しでも協力できるよう知恵を働かせます。

写真家・高橋美香さんのご著書2タイトル

ツイッターでご紹介させていただいたクルド人のおかあさんによる 伝統レース編み「オヤ」のネックレスは、もともと写真家・高橋美香さんがクルド人ご家族の支援のため販売サポートしているもので、高橋さんの本の編集をしている友人を通して、当店でもお取り扱いさせていただきました。

高橋美香さんのご著書は、微力ながら当店にも並べていますが、お客さまをお迎えできない現状のため、通販でお求めいただけるようにしました。

下の画像は、クルディスタン(国を持たないクルド民族の生活圏)と高橋さんが取材を続けるパレスチナが載っている地図を探して出てきたものです。手元にあったものなので、第一次世界大戦後の情勢地図です。

【新刊】『パレスチナの ちいさな いとなみ』 1,980円(税込)

昨年かもがわ出版より上梓された皆川万葉さんとの共著です。
“紛争、封鎖、占領、抑圧という辛く悲しい現実のなかにも、パレスチナの人々を支える仕事があり、働く人びとには笑顔があります。”と帯にもあるように、この本に登場するのは、俳優さん、パレスチナの伝統スカーフ工場の経営者、コーヒー屋台のお兄さん、2017年にバンクシーがオープンさせたという「ザ・ウォールド・オフ・ホテル」のドアマン、イスラエル軍の尋問が原因で旦那さんを亡くしてしまった6人の子を持つ難民キャンプのお母さん、さまざまな人々です。計り知れない苦難を抱えながらも、慈しみ深い笑顔が印象に残ります。
後半にはパレスチナの歴史、一問一答コーナーもあり、お子様と一緒に考えるのにも役立ちそうです。

かもがわ出版詳細ページ⇒

ご注文は、こちらのページ一番下の専用フォームよりお願い申し上げます。

『パレスチナ・そこにある日常』(古本) 1,100円(税込)

パレスチナ、イスラエル、エルサレム、、頭の中のこんがらがった糸を整理してくれたのが(とはいえ宗教、民族が複雑に絡む情勢はいまだに理解しきれてはいませんが)、『パレスチナ・そこにある日常』でした。
上の地図と、こちらの本の巻頭イラスト地図の違いだけでも、パレスチナの激動がうかがえますが、『パレスチナ・そこにある日常』には、住む土地を制限され、生活も命も脅かされながら、希望を失わずに生きる人々の姿が高橋さんとの交流を通して活写されています。
この本の中に出てくるコーヒー屋台のまだ学校に通っていた長男が、『パレスチナの ちいさな いとなみ』では成長し、立派に店を切り盛りしているのに気がついたときには胸が熱くなりました。

未來社詳細ページ⇒

イラスト:早川拓司
初版帯 帯に折り目がついています。カラー写真32pあり。

【通販のご案内】

 [お支払い方法] 銀行振込のみ(ゆうちょ、三菱UFJ)
 [送料] 200円(クリックポスト/追跡可/郵便受け投函/2冊ご注文いただいても送料は変わりません。)

★ ちょっとお得
 『パレスチナの ちいさな いとなみ』『パレスチナ・そこにある日常』セットで
ご注文の場合は、合計金額から、80円引きいたします。
  ⇒ 1,980円 + 1,100円 − 80円 + 200円/送料 = 3,200円

 

 

【高橋美香さんご著書専用ご注文フォーム】

(新刊)パレスチナの ちいさな いとなみ 税込1,980円

(古本)パレスチナ・そこにある日常 税込1,100円(必須)

折り返しお振込み先のご案内をお送りいたしますが、
自動返信は設定しておりませんので、ご返信に少しお時間をいただく場合がございます。

音の台所さんの新刊絵本『くもこちゃん』

えほん『くもこちゃん』

作・絵:音の台所 発行:七月堂
税込 990円(本体 900円)
送料 200円(クリックポスト/郵便受け投函/追跡可)
*お届け先の郵便事情(郵便局閉鎖など)により、お届け方法を変更する可能性もございます。

市場の古本屋ウララ店主・宇田智子さんのエッセイ「くもこ」から着想をえて出来上がった絵本です。

 

「くもこ色」それは、むかし沖縄で美しい色を意味することばでした。
首里城、ヤンバル、夜光貝など、美しい色をからだに映しながら、くもこちゃんは空を漂い旅します。
巻末の「くもこ辞典」が秀逸です。各ページの絵をより深く識ることができますよ。

お篭りの日々ですが、ふわりふわり、くもこちゃんに身を任せ、絵本の中の沖縄を旅してみませんか ☁︎ ☁︎ ☁︎
 
『くもこちゃん』のツイッターアカウントもできたそうです。@kumokochan2020
空の上のこと 空の下のこと ぽつりぽつりと つぶやきます☁︎ ☁︎ ☁︎

昨年、第一牧志公設市場の最終営業日まで、市場の古本屋ウララさんの店内で行われた音の台所リトグラフ展『市場のねこ』からつくられたポストカード2点、「市場のアーケード」「市場のパラソル通り」(各 税込150円)も同梱できます。(同梱しても送料は変わりません。)

【絵本『くもこちゃん』専用 通販お申し込みフォーム】

自動返信は設定しておりません。
お手数ですが、1、2日経過してもご返信がない場合は、koshohoro(あっとまーく)gmail.comまでご一報ください。

台湾報告その1 海外神社跡編

1/14〜21に連休を戴いて、台湾を旅してきました。
1年間台北で暮らしている友人家族に会いにいくのが目的だったので、はじめは小さな旅のつもりでしたが、十数年ぶりの海外、次はいつ行けるかわからないと思うと欲が出てしまって、いつのまにか計画は膨れ上がり、6泊7日環島の旅となってしまった次第。

初日と最終日の宿だけ予約し、あいだの4泊は、行き当たりばったり。
とはいえ、予約サイト充実していることが目新しく、4泊分は前日にオンラインで翌日の宿をとる、という流れになりました。まぁ現地に着くとサイトに掲載されていないような宿もたくさんあるんだ、ということがわかったのは学びのひとつでした。

旅程はざっとこんな感じでした。

1日目 羽田→松山→台北→(圓山大飯店/台湾神宮跡)→北投温泉泊
2日目 台北→嘉義泊
3日目 嘉義→台南泊
4日目 台南→屏東泊(阿猴神社跡)
5日目 枋寮→《南廻線》→金崙→枋寮→佳冬(佳冬神社跡)→枋寮泊
6日目 枋寮→宜蘭→瑞芳→金瓜石
7日目 金瓜石(金瓜石社跡)→桃園→成田

着いた日と翌日午後までは、友人夫妻のご案内で、台北の主に書店めぐりをしました。そのご報告はまた改めて。

ピンは宿泊地です。

今回は、海外神社跡を訪ねたご報告です。
台湾行きのタイミングがもっと早かったら、まったく思いつかない観点でした。

昨秋開催した編集グループSUREによる連続トークイベントでお話しくださったうちのおひとり、SUREからは2015年に『「大東亜共栄圏」の輪郭をめぐる旅ーー海外神社を撮る』が出版されている写真家・稲宮康人さんとご縁ができました。
ちょうど、稲宮さんが10年かけて撮影してこられた海外神社跡写真の集大成となる『「神国」の残影』が国書刊行会から刊行されるタイミングとも重なり、当店でも10月後半から年末にかけて写真展を開催させていただきました。
そんな流れから毎日「海外神社跡」の写真をみるようになり、海外神社の存在に思いを巡らせるようになりました。

台湾は、1895年から1945年まで、日本により統治されていた時代があるため、大日本帝国が建立した神社の数も多いとのことでしたので、この機会に訪ねてみよう、と思ったのでした。
稲宮さんからは金子展也『台湾神社故地への旅案内』(神社新報社)をお借りしたほか、こちらの地図の存在も教えていただきました。

 

日付順に辿ると、ひとつめは、車窓から見ただけですが、台北から北投温泉へ向かうMRT淡水信義線から、あれだ!と一目でわかる圓山大飯店〈台湾神宮跡〉を確認しました。

 

緑色のイルミネーション向かって右側に橋があります。

次に出会ったのは、屏東でした。客家伝統茶をたっぷり時間をかけて味わったあと、台湾産のコーヒーが飲めるカフェに向かう途中、屏東公園に〈阿緱神社跡〉の石橋を見つけました。こちらは、稲宮さんの写真集の「著者が調査した海外神社跡地一覧」に名前が載っています。ちょうど旧暦の正月を迎える時期で園内は眩いばかりのイルミネーションに彩られ、若いグループがたのしそうに写真を撮ってました。石橋のかかる池も光を反射させていました。

 

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3つめは佳冬神社。駅を降りて、まずは客家の住宅が残る小径を散策したのち、ココナツやバナナの農園、なにかわからない養殖池などを両側に見ながら人通りの少ない道を歩いて神社を目指します。神社跡を目指さなければ、ぜったいに歩くことのなかった道です。
バス通りに出てしばらく歩くと、稲宮さんの写真の通りの鳥居が現れました。小さな石橋もわたり、参道を進みます。沿道の民家では、お正月の準備でしょうか、玄関の上に貼られた赤い横長の紙の文字飾りを脚立にのった男性二人がスクレーパーで剥がしているところでした。ほどなくして着いた社殿基壇に上ってみると、鬱蒼と木々が生い繁っていてます。いかにも南国らしい風情の実がたわわになっていました。あとで調べたところコパラミツという名でした。

帰りもスクレーパーの男性二人は気の遠くなる作業を続けていて、先ほどは離れたところにいたおばあさんが脚立の足元まで来ていて、二人に向かって何か指示を飛ばしているのでした。
これを書く段になり改めて稲宮さんの写真集を開くと、参道の両脇にずらりと並んでいた灯篭の痕跡がいまでも見られたっぽい。残念ながらそれには気づきませんでした。

台東駅あたりの車窓からの眺め

幕末の上野戦争のときに寛永寺門主だった輪王寺宮、のちの北白川宮能久親王は、寛永寺から逃れたあと、めぐりめぐって48歳のときに台湾征討近衛師団長として出征しますが、台南にて落命します。皇族では初めて外地での殉職者となったため、台湾の神社の祭神として名を連ねられていることが多いことは、稲宮さんのトークでも説明されたことですが、実際に台湾をぐるっと鉄道で廻り、車窓から、南へ行くにつれ濃度を増していく風景、神々しく聳える山々が織りなすダイナミックな風景を目の当たりにすることで、やっと史実として感じることができました。
ここまでの3つの神社には、能久親王が祭神として名を連ねていたそうです。

 

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そして最後が、金瓜石社跡。観光メッカあの九份からもバスで10分くらいのところにもかつて神社がありました。

われわれは夕方の便で日本へ帰る最終日の朝、スーツケースを宿に置き、金瓜石の宿から神社跡を目指しました。

鉱山として栄えた過去を伝える黄金博物館の入口近く、視界を割くように現れたのは、「全家(ファミリーマート)」の看板。店先では店員さんが、なにやら巨大な空気人形のようなものを膨らませようとしているところでした。あまりに唐突な光景に立ち止まりそうになるも、我々の目的は神社跡、黄金博物館もパスしてるので前進前進。
いよいよ登りがはじまるその手前には、鉱物を運搬していたトロッコ軌道跡もありました。黄色味が強い足元の土は、前の晩の雨でぬかるんでいるため、滑らないよう集中しつつ、一歩一歩。山道、じゃなくて参道の石段を登る、登る、登る。
ひとつめの鳥居で腰を伸ばして、振り向くと、山と山の間から遥か基隆の方向に海が見えました。絶景。曇天でしたが様々な鳥の清々しい鳴き声が響きます。
後ろから黙々と登ってきた男性が私たちの写真撮影を待ってくださったり、追い越してもらったり。ときどき立ち止まっては、建物がどんどん遠く小さくなるのを確かめながら、ひたすら登る。
ようやく神社跡に着くと、梅のような濃いピンク色の花が迎えてくれました。先ほどわれわれを追い越した男性は戻ってきたところで、お互いこの石段を制覇した者どうし軽く微笑み、男性は「I’m tired.」と呟きくだっていかれました。

入口の大きな鳥居の柱には、昭和拾弍年七月吉日と彫られていました。
その先には柱だけが何本も天に向かって伸びていました。神社跡というよりギリシャ神話か何かの神殿遺跡のようでもありました。

しばらく絶景を眺めながら息を整えているところに、自分たちよりも15歳くらい年上と思われるご夫婦が到着。奧さんに立ち位置など指示しつつ時間をかけて写真撮影しておられました。

金瓜石社は鉱山の持ち主となった日本鉱業が建立、大国主命、猿田彦命、金山彦命が祀られたそう。それにしても、よくもこんな山の中腹に資材を運んだと思うし、稲宮さんも大判カメラと三脚担いでのぼったんだよね、と遠い目で頂きの方へ目をやると、坑道はさらに山の上の方まで続いているのでした。

下りも滑落しないよう慎重に。中盤から膝が笑いはじめましたが、チェックアウトの時間も迫ってきていましたので、ひたすら下る、下る。
行きに通り過ぎた全家(ファミリーマート)の店先には、空気で膨らませたゲートが設置されていて(人形ではなかった)、なんとこの日がオープンだったのです。黄金色のジャケットに赤いスカーフといういで立ちの、恰幅のよい、どこからどう見てもこちらがオーナーだろうな、とわかる紳士を囲んで野外セレモニーの最中でした。みなさんうれしそうな顔でした。

以上がこの旅でわれわれが記憶したこの日の神社跡の風景です。
行く先々で自転車を借りて周るつもりだったので、もう少し出会えたかもしれないのですが、台湾は右側通行、さらに夥しい数のスクーターが走っており、とても流れに乗れそうになかったので断念しました。
海外に建てられた神社には、日本人移民により建てられたものもあるため、すべてが大日本帝国絡みではないですが、すでに営まれている生活に分け入り、「神」を祀り、そして敗戦とともに廃絶、、75年の歳月が過ぎ跡形も無くなってしまったところも多いでしょうが、その過去は胸に刻んでおかなくてはいけません。
機会をくださった稲宮康人さんとSUREのみなさんに感謝。

はじめに戻りますが、こうしてたった数箇所だけ訪れただけで、稲宮さんの写真集『「神国」の残影』(国書刊行会)がいかに大著かを改めて実感しました。さすがに一家に一冊、というわけにはいかないでしょうが、これからの世代の方々にも伝えるため図書館や学校の図書室にもぜひ所蔵していただきたいです。

品出し最新情報につきまして

通信販売でご注文をいただいた際の利便性を考えまして、品出し情報は「日本の古本屋」サイトへのアップをメインにいたしました。

日本の古本屋(古書ほうろう新着書籍):https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=12050640

ご来店いただけるお客様には、もちろん店頭での販売も対応いたしますので、お電話か、上記メニューのお問い合わせフォームよりご連絡ください。