池之端でひと月が過ぎました。

池之端で営業を再開してひと月が過ぎました。

追い詰められた3ヶ月、のち、再び多くのお客さまをお迎えできるようになってのこのひと月、ほんとうにありがたく、ひさしぶりに陽を浴びているような感じです。
千駄木のお客さまも、やっと開きましたね〜とご来店くださり、小さくなってもほうろうエッセンスは変わらない、前よりも一冊一冊がよく見える気がする、とおっしゃってくださる方も多く、重圧が少しほどけ、ひとまず安堵しています。

12月の賃料値上げ通告から半年、長い長い移転作業となってしまいましたが、営業を再開できたのは、たくさんの方々が関わってくださりお力添えいただけたからこそでした。古書ほうろうは、バックに資本があるでもない、通帳の上を3桁、4桁の数字が出入りしている小さな規模の店なので、ともすると「店=自分」自分たちがつくっているという考えに陥りがちですが、いかに多くの方々が関わってくださっているうえで成り立っているか、ということを身を以て知る機会にもなりました。
あらためましてお礼申し上げます。ほんとうにありがとうございました。

まず必要なのが容れものでした。ほうろうの場合は、千駄木から遠くない路面店が第一の条件で、ネット検索でたまたまヒットしたのがこの物件でした。これまでバス通りに面していましたので、裏道、という不安はありましたが、面積が千駄木の3/5、賃料はほぼ半分ちかくまで下がるのは何より負担が減ります。相場が上がるばかりのこのあたりにしては、良心的な賃料でした。そして仲介の不動産屋さんの名前を見て、おぉ!となりました。なんと一箱古本市の大家さんも引き受けてくださっている根津のハウスサポートさんだったのです。先行き不安しか無いなか、旧知の小松栄子さんにお任せできるということは何より安心でした。
果たして内見させていただくと、東京大学の池之端門は、東大病院に近いということもあり、出入りが多い。道行く人も少なくはない。タナカホンヤさんからほどよい近さで、なんとStore Frontさんという予約制ではあるけれどアート系の古書店と同じマンションでした。
これはやるしかない、と感じつつも、迷い揺れる我々の背中を、小松さんが終始さりげなーく押し続けてくださいました。(Store Frontさんは、もうすぐ予約なしで入れるようになるそうです)
そうして出会うこととなった新しい大家さんは、店子の声に耳を傾け、心を尽くしてくださる神様のような方でした。(涙)

元は代々飲食店だったため、内装工事は必須でした。こんな自分たちが居ていいのかと思うようなすてきな内装、設計と施工は、千駄木でご近所だった建築家の山村咲子さんと、千石の寺井工務店さんの手によります。
山村さんとは何年も前から接近遭遇を重ね、2016年に古書ほうろうで開催された「谷中と、リボンと、ある男」展で言葉を交わすようになり、翌年の5月から千駄木4丁目の住宅街に、同じく建築家の謡口志保さんとともに「千駄木マド」というレンタルサロンを開かれて以来、親しくさせていただくようになって、新築だけでなく、古い建物や部材の保存活用のための活動やお仕事にも力を注がれていることを知りました。
今回の移転に際しては、寒風吹きすさぶなか内見にご同行いただいたのにはじまり、実に膨大なお時間を共にしてくださいました。
東京大学のディテールに調和しているかのようなレンガの壁は、おそらく竣工当時からのもの。おしゃれ感を醸し出しているガラスの照明器具も前の店で使われていたもの。そんなチャームポイントを活かしつつ、古本屋に仕立て直してくださいました。谷根千〈記憶の蔵〉の改修の際ゆずっていただいたものの何年も千駄木のバックヤードで日の目を見るのを待ち続けていた柱材はカウンターのアクセントにしてくださいました。
山村さんが引き合わせてくださった寺井工務店さんは、(お金も時間も)無い無い尽くしのわれわれの救世主で、その都度希望を汲み入れてくださりつつ、ほんとうに短い日数で、バシッとすばらしい内装にしてくださいました。
小部屋のあるおもしろい間取りなのですが、その床も自慢のひとつで、経費を切り詰めるため、toolboxから取り寄せた床板をほおずき千成り市の友人たちにオイル塗装してもらったものを、寺井工務店さんが敷き詰めてくださいました。小さなスペースですが、古本も並んでますのでお見逃しなきよう。
コーヒーもお出しできるようになりましたので、小部屋の窓辺のテーブル席でぜひ。

次に什器類。ほとんどは千駄木から持ち込みましたが、メインスペース中央に連なる5台の可動棚は新調しました。イメージやサイズの希望を、山村さんが図面にしてくださり、根津の澤新木材さんが製作してくださいました。
ずいぶん前に千駄木の店のスチール棚を可動式にした際、台座のベニヤ板を澤新さんにお願いして以来、再び可動棚でお世話になりました。ハンマーキャスター推しの材木屋さんです。

庇テントは(訳あって赤にしましたが)、千駄木でずっとお世話になってきたお向かい八木沢不動産さんのご紹介で根津の瀬戸商店さんに設置していただきました。古い骨組みを活かして、長年の夢だった全面庇にしてくださいました。

ちなみ内装などにかかった費用は、厨房の水まわり(コールドテーブル、2槽シンク、換気カバーなどは残置物再利用)、厨房内床上げ、既存カウンター撤去、カウンター新設、帳場まわりの造り付け棚、店舗の天井を抜く、ダクトまわり、電気配線などの見直し、ライティングレール設置、壁塗装、床板などの施主支給、新調したキャスター棚、テント庇、設計費を含め、おおよそざっくりですが550万くらい。

もっとも不得意と胸を張れるお金のことは、毎年イチから決算書の見方を教えてくださる税理士の森山太朗さんに、確定申告前の繁忙期というのに泣きつき、融資のことなど、いろいろご提案いただきました。移転にかかる費用(上記の工事費の他、物件借り入れ費用、様々な諸経費)すべてを借り入れる必要がありましたので。
最終的に貸してくれたのは政策金融公庫でした。金利面では、移転先となる台東区の中小企業用の制度のほうが負担が少なかったのですが、区内で創業して1年以上などの条件をクリアできませんでした。また創業からのほうろうのメインバンクである城北信用金庫さんにも訊いてみましたが、借り入れ、返済の実績がないと難しいとのことでした。
登記の書き換えは森山さんにご紹介戴いた司法書士の石川直也さんにお願いしました。

できれば借金はせず、ともかく内装にお金かけるくらいなら手元に残しておたほうが身のため、棚をいじってるくらいなら一日でも早い開店を。
いったいこれまで何人の方にしたり顔で言ってしまったんだろう。。顔から火が出るくらい、今回すべてが当てはまりませんでした。。

千駄木の貸主から立ち退き料がもらえたか、闘えばよかったのに、と何人かの方に訊ねられましたが、もちろんそのようなことはなく、値上げ前の賃料34万円を毎月払い続けるだけで精一杯だったのと、漏水の頻度を考えると、この機会に移転に全力を尽くすのが身のためと判断したのでした。

実際の移転作業については、3月3日に千駄木の営業を終え、ひと月もあれば移転できるだろうと踏んだあの頃の自分たちは返す返す恨めしく、、できるかぎり人の手を煩わすことなく搬入搬出もしようと(できるだろうと)考えてしまった読みの甘さは、最後の最後まで改善されることなく、、自戒を込めて何度でも書きますが、実際やってみると、引越し業者に依頼しない(できない)移転作業というのは、協力してくださる方々なしでは実現不可能なことでした。

結果、千駄木から池之端への移動は、一度では運びきれず、4月5日と4月25日の2回となり、その度にいつも直前になって急な呼びかけをすることに。
そんな綱渡りを気にかけてくださり、多忙なはずの近所の友人たちがいの一番でメールをくれたり、近所のお店の方が開店前に駆けつけてくださったり、一箱古本市の助っ人さん、店主さん、サウダージな夜チームの皆さんや、ほおずき千成り市の仲間たち、、片っぱしからご好意に甘えさせていただくこととなりました。
搬入搬出のない地味な作業の日々も、仕事帰りに千駄木に連日通ってくださり、スチール棚を雑巾で拭き上げ結束していただいたりもしました。
そうして膨大な本をひたすら縛っていただき、初顔合わせの方たちが次の瞬間には気の遠くなるようなバケツリレーをすることになるという、計画性とは対極の作業に、千駄木閉店を残念に思ってくださるお客さまも手を挙げてくださったことは、それだけでもありがたいことでしたが、搬入前のがらんとした池之端の店をご覧になって「ここなら次の楽しみになります。ようやく気持ちの区切りがつきました。」と爽やかな笑顔で仰ってくださったのはほんとうにうれしいことでした。

池之端の旧テナントに残されていたテーブルやベンチ、千駄木のテーブルやスチール棚なども、大勢の方々に引き取っていただきました。なかでも近所の同業、古書 書肆田髙さん、古書鮫の歯さんが申し出てくださったことで、スチール棚たちに次の役目が与えられ、気持ちの負担もずいぶん軽くなりました。

オヨヨ書林さんが根津の店から移転する際譲ってくださった置き看板は、池之端へのUターンは叶いませんでしたが、廃棄の山から古書鮫の歯さんが発見してくださり、なんと、鮫の歯さんの看板コレクションに加えてくださることなりました。思いがけない幸運に、よし、これで千駄木を終わりにしていいんだな、と顔を上げることができました。

最後の最後、ガラスのショーケースと壊れて使えない本棚など、2tトラック2台ほどは東京廃品回収センターに持って行っていただきました。
別業者に依頼した残置物の業務用ガスコンロ台なども含め、廃棄に20万ほどかかりましたので、什器類を多くの方に有償で引き取っていただけたのはほんとうに助かりました。

売るほどの在庫を抱えていた、ということは、古書組合の同業者の市会に出品することで、売り上げを立てられたということでもありました。3ヶ月もの間店を閉め、うち2ヶ月間は家賃の二重払いという厳しい状況でしたが、市会の売り上げと、あとは、閉店セールでお買い上げいただいた売り上げがあったことで、凌ぐことができました。
積まれた箱を開けるたびに放置してしまったことを心のなかで詫び、選別し、池之端へ持ち込まないと決めた在庫は、毎週、毎週、市会に出品しました。市会の仕分けでは、三楽書房さんにとくにお世話になりました。

市会への運搬と、2回にわたった池之端への運搬をしてくださったのは、神保町の篠崎運送さんです。
そしていつも出張買取などでお世話になっている赤帽深大寺運送さんにも、自宅退避の數十箱の移動など、何度かお願いしました。
ピアノの移動は、インターネットで見つけたタキガミピアノさんに運んでいただきました。

CDもたくさんありました。レコードやDVDも含め、およそ4000枚をディスクユニオンさんに買い取っていただきました。(ここだけ枚数が出るのは、明細をいただいたからです。古本は数える余裕はありませんでしたので。)

近年の海外からの旅行者景気やオリンピックのあおりをまさか自分たちもこんな形で受けるとは思ってもいませんでしたが、大家さんが賃料値上げを提示してきた、という話を知り合いの店主さんたちからしばしば耳にします。

貸す側にしたら今はよい風向きかもしれないですが、経済の最小単位は、一人の人です。一人の人が、商売を続けられなくなるとうことは、買い物が減り、企業の売り上げも落ちる。社員の給料も落ちる。
一人の人が商売を続けられない場所には、大きな資本が入ってくる。個性がなくなり均質化した町は面白みがなくなり、人が来なくなる。小さな単位は、個々の人生の単位で入れ替わりができるけれど、大きな資本が永遠に続くことはなく、力尽きれば一気にゴースト化してしまう。

オリンピックが終わってかりそめに焚きつけるものがなくなったらどうなるのか。そうでなくても、前年を上まわり続けなければ成り立たない経済は破綻する気がしていますが。
ひとつひとつの貸家が、単なる収入源ではなく、町を構成する要素だということを意識している大家さん、不動産屋さんの存在も知っています。
なので、そうじゃない大家さんには、どうか安易な値上げに走る前に一度立ち止まって考えて欲しいです。店というのが、個人の努力だけではどうにもならないことだとよくわかりましたので。

話が逸れました。あまり大きな風呂敷を広げると収拾がつかなくなってしまいます。
広かったけれど小さな単位の店の移転に、想像をはるかに超えるたくさんの方が関わってくださり、気にしてくださったことに、正直驚いてもいますし、こうして次の場を与えていただいたことに、まだまだやることはたくさんあると感じています。
棚の前でひっそりわくわくしたり、静かに羽をやすめられる、そんな店にしていけたらいいなぁと思っています。

不忍ブックストリートのメンバーをはじめ、親しい方たちが急かすことなくずっと待っていてくださったこと、千駄木のマンションの方たち、ご近所の方たち、近くの遠くの友人たちが、ずっとそっと応援していてくださっていたことで、今こうして日々録を書くことができています。
ほんとうにありがとうございました。

長々と書いてしまいましたが、書ききれなかったこともたくさんあります。記憶が吹っ飛んでしまっている部分も多々あるかと思います。
ずっと下書きを重ねてきた割に読みづらいままですが、感謝をお伝えしたく書きはじめた文章なので、ちょこちょこ手直しするかもですが、ひと月を機に、ひとまずこの状態で公開します。

最後に営業のご案内を。
千駄木から2駅ほど南に移っただけと思っていましたが、夜の訪れの早さなど、周りの環境ががらりと変わり、完全夜型だった自分たちが少しだけ朝型に自然とシフトしたのは意外なことでした。
雨の日はバス通勤になってしまうことなどもあり、営業時間を見直しました。12時開店は変わりませんが、夜は21時閉店となります。

定休日は、月火(祝日の場合は営業)になります。
1日は、仕入れや仕込みなど営業中にできない作業に充て、1日は当面完全休養するようにしました。(といっても、わが家の1LDKの「1」部分が、まだ行き場のない古い帳簿類や本たちの山が聳えていますので、そちらも少しずつ着手しないと、、なのです。)
臨時休業などは、ホームページtwitterにてお知らせします。

これまで通り、古本、CD、レコードの買い取りもしておりますので、お気軽にお声がけください。
あとは、まだお飲み物だけですが、オリジナル焙煎したお豆をハンドドリップしたコーヒーや、手作りシロップの冷たいお飲みものなどをご提供できるようになりました。

不忍池の蓮の葉がわらわらと生い茂ってきました。花の見頃は20日ごろかしら、と近所の方に教えていただきました。お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。

写真は、山村咲子さんが撮影してくださった5月29日オープン日の古書ほうろうです。